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東京家庭裁判所八王子支部 昭和60年(家)2387号 審判

申立人 高森ステラ

相手方 ジャックEパーキンス

事件本人 クリスヨーコパーキンス

主文

申立人を、相手方と申立人との間の子である事件本人クリス・ヨーコ・パーキンスの親権者に指定する。

理由

第一、申立

一  申立の趣旨

主文の同旨

二  申立の実情

1  日本国籍を有する申立人は、昭和56年1月ころ当時神奈川県座間市所在の米国基地に勤務するアメリカ合衆国陸軍軍人である相手方と知合い同57年1月25日相手方とアメリカ合衆国フロリダ州で結婚した。

2  申立人は同57年9月6日神奈川県相模原市○○×丁目××番×号所在の○○大学病院産科で相手方との子事件本人を出産した。

3  同59年2月相手方はアメリカ合衆国カリフオルニア州内の基地に転属となつた。申立人事件本人らはそのころ相手方とともに渡米し、上記基地内で居住した。

4  しかしながら、相手方は上記渡米後申立人に対し毎日のように暴力を振い又は他の女性を同居させる等した。

そのため、申立人と相手方は不和となり、殊に申立人は上記相手方の行動に耐え切れず同60年3月相手方のもとを出、同年4月21日事件本人を連れて帰国し、以来現住所において事件本人を養育している。

5  ところが、相手方は申立人に何の知らせもないままアメリカ合衆国フロリダ州ベイ郡巡回裁判所に婚姻解消の訴を提起し同年4月19日同裁判所において申立人と相手方の婚姻を解消する旨を宣言するとの終局判決がなされたが、同判決は婚姻解消の宣言にとどまり事件本人の監護教育権者については何らふれられていない。

6  現在まで相手方からは事件本人の養育費の送金はなく、申立人は会社員として月収約15万円を得それにより事件本人を養育しており、将来も引続き事件本人の監護養育に当るつもりでいる。

7  申立人を事件本人の親権者に指定してもらいたい、又事件本人を日本国に帰化させるためにもそれが必要である。

よつて、本件申立に及ぶ。

第二、当裁判所の判断

一  本件審理の結果によると、次の事実が認められる。

1  第一の二の1ないし6の事実。

2  申立人は事件本人を連れて昭和59年5月ころと同60年3月ころの2度にわたり相手方のもとを出てカリフオルニア州内の施設に身を寄せた上、上記のとおり帰国したこと。

3  申立人は相手方に対し上記事実殊に申立人と事件本人らの所在場所については殊更秘していたこと。

二  親子関係の法律関係は、法例20条により父の本国法によるべきところ、申立人審問の結果父の本国法と認められるアメリカ合衆国フロリダ州法によると児童保護の事項を定める権限は裁判所にあり同州の裁判所の同事項についての権限は同州が離婚訴訟手続の開始時に児童の在住州である場合等の場合に有する旨定められ、同州裁判所はその土地管轄内にいない児童の保護に関する事項を定めることができない。

申立人と相手方の離婚の際事件本人の保護に関する事項について定めなかつたのは同州が同離婚訴訟の際事件本人の在住州でなかつたことによるものと推認される。

ところで、アメリカ合衆国では児童の監護教育者を定める権限は児童の住所地を管轄する裁判所にあると解されている。

そこで、事件本人の住所についてみると、事件本人は上記の認定のとおりカリフオルニア州内に居住中に相手方のもとを出て現在の肩書住所地に居住していることが明らかで、その間の同60年4月19日申立人と相手方は離婚していることもまた明らかであるから事件本人の住所は日本国内の肩書住所地というべきである。

同州の児童保護事項に含まれると解される親権者の指定についての審判を求める本件については、上記フロリダ州および解釈基準により法例29条に則り、事件本人の住所地法たる日本の法令によるべく、民法819条家事審判法9条乙類7号を類推し、申立人は親権者としての必要条件に欠くるところはないから、申立人を事件本人の親権者に指定することは相当で、かかる趣旨の審判を求める本件申立は理由があるから認容することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 近藤壽夫)

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